2012/11/05

Essay in Japanese 日本語で〜す

ミラノ、都市の光と影

ミラノ到着して、まずはお決まりの大聖堂に向かった。ミラノの大聖堂は壮大で威厳がある。ミラノ一番の観光スポットだ。大聖堂の前の広場は沢山の観光客で賑わっている。世界中から観光客が来ているようだ。すれ違う人々の話す言語がそれぞれ異なる。大聖堂の中ではちょうどミサが執り行われていた。まるでテレビの旅行番組を見ているような光景だった。

大聖堂の広場では色とりどりの小さな輪っかを持った黒人たちが、これを買ってくれとせがんでくる。それをかわすと次には鳩の餌を持った黒人がそれを差し出してくる。鳩の餌を手に持たせ、そのまま鳩を呼び寄せる。ちょっとした余興だ。ある黒人は記念写真を撮ってやるといい寄ってくる。

そうした余興を無邪気に楽しむ観光客も多い。その時は楽しいのだが、余興が終わるとその代金の請求がやってくる。こうしたサービスは決してただではない。はじめは笑顔でいた観光客の顔がみるみる曇り始めてくる。結局最後に不愉快な思いをさせられ、観光客は解放させられる。お金を渡そうとしなかったり、少ないチップで逃げようとすると、しつこく追われる。中には数人の黒人に囲まれてしまった人もいた。

このような詐欺、脅迫まがいの行為が野放しになっているのは、イタリアらしいのかも知れない。前向きに捉えれば、観光客にとっても楽しい観光旅行をさらに印象深くする、ちょっとしたスパイスだ。それにしても観光客にとっては一度の嫌な思いかもしれないが、やる方は毎回トラブルを起こすのだから、それも大変だろうと思う。ストレスの多い仕事だ。その割に実入りはたいしたものではない。

観光スポットとなっている通りの端には黒人やインド系と思われる人々が、路面の上に装飾品やバッグなどを並べて売っている。それがお祭りの時の露天のようにずらーっと並んでいるのはある意味壮観だ。しかしあまりの数の多さに辟易としたし、売る側の方だって、競争が多すぎて商売にもならないだろう。

こうした物売りの人々は、共通してうつろな目をしている。人生に希望を持っていない人の目をしている。合法か非合法かは知らないけれど、彼らは仕事を求めてイタリアにやって来た。しかし、何の技術も持たない移民に仕事などあるはずがない。結局は道端に立って、いくばくかの小銭を稼ぐしか出来ることはない。生活はいつも不安定で、そしてそこに将来はない。

地下鉄に乗ろうとして、切符を買うために自動販売機とにらめっこをしていたら、早速アジア系の色黒のおじさんがやって来た。聞きもしないのに切符の買い方を教えようとする。それは親切な行為なのだけれど、案の定チップを要求してきた。別に支払いを断ってもいいのだが、100円かそこらのお金を渡してやればいいことなので、小さな揉め事を起こすよりは、神様に捧げたつもりでチップを渡した。しかし、気軽に支払うともっとよこせなどと請求してくるので、出し渋る振りもした。

ただ、こうした詐欺まがいの行為がイタリアだけかといえば、そうではない。先日には、スイスのローザンヌで、二人で食べていたのに三人分のピザ代を何気に請求してきた黒人ウエイトレスに遭遇している。明細のところが見えないようにレシートを折って、金額だけ請求してきた。千円二千円の差なので、こうしたやり方だと気付かない人も多いのだろう。間違ったと言われればそれまでだが、手口には故意がある。

ミラノ散策の後半、今は公園になっているお城を歩いていたとき、人だかりに出会った。ちょうど進行方向だったので、通りすがりに野次馬となった。黒人が警官に逮捕された瞬間だった。身柄を拘束された黒人の横で、白人の女性が倒れていて、痛そうに脚をさすっていた。黒人のものらしき安物のバックが散乱していて、他の警官が足蹴にしながらバックを集めていた。後ろ手に拘束された黒人の目は、極悪犯のものというよりは、単に絶望に満ちた虚ろなものだった。

恐らく彼は移民で、これで母国に強制送還となるだろう。将来を求めてヨーロッパに来たのに、また絶望の地に戻される。そんな気分というのはどんなものなのだろう。彼にとってイタリアは何のいいこともない、失望の地でしかなかったのか。

しばらく歩くと、安物のたくさんのバックを抱えた黒人たちがたむろしていた。恐らくは逮捕された彼の仲間だ。大体の事態が想像できた。この集団が公園内でバック売りの露店を広げていたのだ。そこに警官がガサ入れにはいった。ガサ入れに入った以上、一人くらいは見せしめに捕まえなければならない。その餌食になったのが、彼だ。逃げる途中で、白人女性と衝突して、そこで御用となったのだろう。

こうした社会の底辺、犯罪まがいの行為にヨーロッパで遭遇するとき、そこには黒人やジプシーの姿がある。彼らは社会の底辺に押し込められているがゆえに、すれすれの行動を迫られてしまう。そういう同情も感じはするけれど、自分が被害者になって損したくはない。黒人やジプシーへの警戒が差別への誘因につながることを承知しつつもだ。

今回のミラノ観光は大変興味深いものとなった。都市の光と影、その両方を垣間見る旅だった。

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