初日、長野県側の扇沢から黒部に入った。当日は残念ながら雨だった。雨でも黒部ダムの放水は迫力があった。スイスではそこら中で走っているトロリーバスだが、日本では黒部と立山の2路線しかトロリーバスはないのだそうだ。しかも、日本の法律ではこれは電車扱いなのだとか。無論電車に乗った気は全然しない。
黒部ダムは標高1470mの所にあって、日本で一番標高の高いダムだ。関西電力が作ったそうだ。山奥の奥にあるダムで、これを作るためにトンネルが掘られ、これが今の黒部・立山ルートの礎になった。今や日本の名だたる観光名所だが、元はダム建設の工事のために作られたトンネルや道路だったのだ。
トンネルを掘る途中で、大量の地下水が出てきて、工事は難攻したそうだ。地下水に悩まされた区間はほんの数十メートルなのに、ここを突破するのに約1年もかかった。日本の山々は地下水が豊富ゆえに、こうした難所も生まれる。しかし、その豊富な水が電力を生み、黒部ダムの存在意義があるのだから、我慢のしどころなのだろう。
黒部ダムから地下に造られたケーブルカー(地下だけど、登っていく)、ロープウェーと乗り継ぐと、大観峰という見晴らしのいい所に着く。ここは標高2316m。しかし、天候は雨。周囲は霧に包まれて真っ白だった。大観峰は立山連邦の東側に位置し、ここからまたトンネルを走るトロリーバスに乗ると、立山の真下を突っ切って西側に出る。西側に出た所は室堂と言って、日本屈指の豪雪地帯。5月上旬に冬季閉鎖が解けると、その高原道路の脇に8m前後の雪の壁が出来る。標高2450m。黒部ダムからは約1000mも高い所に位置している。
天候は雨、こうなると黒部観光も見るべき所がない。ケーブルカーやロープウェー、トロリーバスと淡々と乗り継ぎ、正午には室堂に到着してしまった。立山蕎麦で昼食を取って、早めに宿に到着する事にした。宿は室堂から徒歩で15分程の所にあるみくりが池温泉。この温泉は日本で一番高い所にある温泉として知られている。宿泊施設は温泉山小屋といった感じだった。登山気分満点にしてくれる宿だった。温泉は近くに地獄谷があるだけあって、硫黄の匂いのぷんぷんする、乳白色の泉質だった。
今回の立山は山岳地帯を歩くのが目的だった。スイスと一味違った日本のアルプスを楽しむつもりもあって、完全な山装備で臨んでいた。よって雨にはびくともしないのだが、宿に着いた頃には全身ずぶぬれの疲れた登山者の様になっていた。でも、この最悪な天候の中で唯一救われた事は、特別天然記念物に指定されているライチョウに出会えた事。宿には午後2時前には着いてしまったが、雨のせいもあってか、問題なくチェックイン出来た。
早速温泉に入って冷えた体を温めた。早朝の出発だった事もあり、風呂に入った後、眠くなってしまった。外はざぁざぁ振りの雨。暫く寝ていたら、外から声聞こえてきた。夕方近くになっていた。気だるい体を起して、窓の外を見ると、なんと雨が上がり晴れていたのだ。早速支度をして外に出てみると、何と雲ひとつない青空が広がっていた。
雲の上の晴天だった。標高の高いこの室堂周辺と立山連峰に青空が広がっているのだった。室堂から見下ろす下界には雲が広がっていた。その雲の地平線に沈みかけた夕日が立山連峰を赤く染めて行った。それは大変素晴らしい光景だった。その赤は徐々に山を駆け上がり、やがて山々に帳が下りた。
室堂から上はもう森林がなく、低い草木が山肌にへばりついていた。この低い草木が紅葉の見頃を迎えていた。通常は9月中旬から下旬が紅葉の見頃なのだそうだが、猛暑の続いた今年は10月上旬が見頃になっていた。夜には満天の星空が広がった。天の川が夜空にくっきりと浮かび上がった。
翌日、立山連峰の雄山に登る事にした。雄山は室堂から一望できる標高3003mの山。室堂からは一ノ越という稜線の鞍部に登り、そこから岩場を直登して到達する。室堂からの標高差は約600mで、天気が良ければ5時間程で往復出来る。雄山からの眺望はとても素晴らしく、室堂まで来たら、是非挑戦したい山だ。
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