2010/10/30

上高地散策、乗鞍のスイス、白骨温泉火事騒動

10月7日
安房峠を越えて、上高地に向かった。上高地はマイカー規制があって、バスかタクシーを利用して入らなければならない。4人だったので、タクシーにした。上高地に向かう手前、釜トンネルを出た所に、大正池という池がある。私と息子はここで降りて、上高地まで歩くことにした。

この大正池は今から95年前に、焼岳という火山が噴火し。その溶岩によって梓川がせき止められ、一夜にして出現した池。しかし、今では年々梓川が運ぶ土砂や流木によって埋められて、当初の三分の一程度の大きさになっているらしい。

しかし、大正池に溜められる水を利用して東京電力が発電所を設けている関係で、毎年秋になると、せっせと浚渫される。その土砂はなんとトラック千台分だとか。東京電力のこの涙ぐましい努力がなかったならば、大正池はとっくに消滅していただろう。

大正池と立ち枯れの木の風景は有名で、今でも美しい。大正池に着いた時には穂高連峰に雲がかかっていたけれど、上高地に向かう途中で雲が切れ、上高地の河童橋に着いた頃には、穂高連峰の雄姿がはっきりと望める様になっていた。これも大変運が良かった。

大正池から上高地までの徒歩コースはほとんど平坦で、道も整備されている。スニーカーで十分歩けるコース。それもあって、ここを歩く人はとても多い。大正池に何台もの観光バスが停まり、ここの徒歩を楽しむ大量の観光客を降ろしている。中国語も沢山聞いた。

タクシーの運ちゃんによると、ここ数年、韓国、中国、台湾からの訪問客が多いのだそうだ。特に韓国が多いという。というのは、韓国には標高3000m級の山がない。その為、それを目指して上高地に大量の韓国人観光客や登山者が訪れるとの事。現代社製のバスまで日本に持ち込んで、オール韓国人の団体様が上高地にやって来るらしい。

河童橋からの穂高連峰の眺望は素晴らしかった。これを目当てに河童橋はごった返していた。本当はもう少し歩きたかったのだが、300mの移動すら徒歩を嫌がる母が同行しているため断念。母は大正池でタクシーを降りず、河童橋まで直行していた。昼食を乗鞍高原辺りでという意見に従って、上高地を後にした。

上高地も妻と来ている。その前は自転車で来ている。自転車で上高地に来た当時と比べると、道路事情はかなり良くなっているようだ。自転車の時は、松本から上がって乗鞍岳まで行き、上高地経由で安房峠を越え高山に行った。高山からは野麦峠を越えたのを覚えている。今回の旅行は昔の自転車旅行を思い出させてくれる、懐かしいものともなった。

上高地からは結局本日の宿泊地、白骨温泉まで直行する事になった。みんな蕎麦を食べていたが、何故か自分だけ無性にナポリタンが食べたかったので、ナポリタンにした。宿についてもまだ早い時間だったので、乗鞍高原辺りを散策することにした。

いがやレクリエーションセンターというところにスイスレストランがあるらしいという情報を仕入れ、そこに行ってみる事にした。このレクリエーションセンターは冬場ファミリースキー場になるようだった。夏は、釣りやパターゴルフ、サイクリングが楽しめる。

乗鞍高原は安曇野に位置している。安曇野はスイスのグリンデルワルドと姉妹都市関係にあるそうで、スイスに因んだ施設が所々見られる。このいがやレクリエーションセンターの入り口にも、スイス9524kmという道標があった。道標はスイスの山道にある道標を模したものとなっていたのだが、9524kmは流石に歩いてはいけない。第一、海を越えねばならないし。

敷地内に入ると、なんとなくスイスっぽい建物が何棟かあった。国旗も揚げられていて、スイスの国旗と、グリンデルワルドのあるベルン州の州旗、そしてグリンデルワルドの村旗が掲げられていた。レストランの名前はシオンだった。シオンはレマン湖畔にある有名な城なのだが、これはローザンヌ州にある。折角グリンデルワルド因みなのだから、アイガーとかユングフラウとかにすればいいのになぁ、などと頭をよぎる。

レストランにあるスイス料理はチーズフォンデューだけだった。まぁ、チーズやソーセージが主体のスイス料理を出すのには難しさはあるだろう。でも、ソーセージなら、もう一工夫出来る気もする。あと、スイスワインが欲しかった。レストランで何故か地場で取れた松茸が売られていた。だいぶ雰囲気的にスイスから遠のいている気がしなくもない。

白骨温泉のお湯は、白っぽくて「白骨」という感じだった。私たちが泊まった旅館は白骨温泉の上の方にあって、露店風呂の大きな旅館だった。お風呂については、みくりが池温泉と並んで満足のいくものだった。

ところが夜中、室内が急に停電して、非常灯がついた。すぐにベルが鳴り、自動アナウンスが流れた。「火事です、火事です、落ち着いて避難して下さい。」これにはびっくりした。旅館で火事に遭遇するのは生まれて初めてだ。ただ、この警報が鳴った時は周囲に煙も流れておらず、まだ避難の時間には余裕がありそうだと思った。

こういう警報が鳴った時には、人の本性が出る。まず息子、「火事だ—、みんな逃げろ—」、と叫んだと思ったら、直ぐにどこぞに逃げ去ってしまった。逃げ足の速い奴である。母は何故かトイレに入った。その後財布すら入っていないバッグを持ってロビーに下りて行った。財布は金庫の中だ。ロビーに行くのにエレベーターも使ったそうだ。この人は、一番先に犠牲者になってもおかしくはない。

私は何か持って逃げるにしても、どうかなと思い、まず周囲の状況を確認していた。煙が一向に見えないし、煙くささも感じない。これは誤報か、あるいは誰かのタバコのせいとか、ちょっとしたボヤ程度のものだろうと思い始めていた。だから荷物は持たず、最後に部屋の鍵をかけてロビーに向かった。その途中で旅館の人が私に告げてくれた。「大変申し訳ありません、誤報です。」

停電が起き、何かの不具合で火災報知機が誤作動し、通常の操作では解除出来なくなり、警報が鳴り続けてしまったそうだ。ロビーに集まったみんなは、旅館の人から誤報だと知らせを受けると、ほっとした顔をしたり、苦笑いをしたりして、それぞれの部屋に戻って行った。怒りだす人はいなかった。

翌日、旅館の人は朝から平謝りだった。朝食の後は珈琲もサービスしてくれた。清算の際には昨日の夕食で飲んだ飲み物代も無料にしてくれた。そうなるならもっと高価なワインを飲んでおけばよかったと、ちょっと悔やむ。それに、そういう事なら毎晩火災報知機が鳴ってくれてもいい。

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