また平らな所に出ると、団体の登山客が小休止していた。横をすれ違うと挨拶がない。あれっと思ったら、中国語が聞こえてきた。中国人の団体登山客だったのだ。これにはびっくり。最近日本に沢山中国人観光客が来ていると聞いていたけれど、まさか立山登山まで団体でやってくるとは思ってもいなかった。因みに、黒部ダムや、室堂にも中国人観光客が沢山いた。立山ホテルのレストランでは、団体客のほとんどが中国人だった。
観光立国日本、というのは少し実現されているのだろうか。雄山からの下山途中では、中国人に続いて沢山の外国人登山者とすれ違った。すれ違った登山者の三分の一は外国人だったと思う。西洋人に「ハロー」と声をかけると、大抵「こんにちは」と返事が来た。日本の山では「こんにちは」だ。韓国人も結構いた。ただ、韓国人は黙っていれば日本人と区別がつかない。中国人は微妙に服装の違いから区別が出来る。でも、中にはファッション雑誌から抜き出て来た様な人もいた。相当なお金持ちの人なんだろう。
雄山からの下りは、写真を撮ったりでゆっくり下りたつもりだったが、11時過ぎには室堂に到着していた。立山連峰は、また雲に隠されてしまっていた。私たちがすれ違った登山客にはちょっと可哀想。室堂の立山ホテルで昼食を取った。こういう所で間違いのない食べ物と言えばカレーだ。かなりの数の団体客のお弁当が用意されていた。これはみんな中国人団体向けのものだった。レストラン中で中国語が飛び交う。一瞬中国にいる気分になった。
今日の宿泊は宇奈月温泉。室堂からバスや電車で乗り継いで4時間ほどかかる。午後2時ごろ室堂を出れば夕方に着けるので、昼食後少し時間があった。そこで地獄谷を歩くことにした。ここは火山性ガスが激しく噴出する所。相当危ないらしく、立札になるべく立ち止まらないで下さいと書いてあった。この地獄谷は結構広く、端から端まで歩くと30分くらいかかる。日本の中で一番大きい地獄谷ではないかと思った。
立山は信仰の山、昔は女人禁制の神聖な山だった。その山裾に位置する地獄谷は、なんでも日本全国から亡者が集められると信じられていたそうだ。地獄谷から見る立山連峰も素晴らしかった。今日は大変運のいい日で、私たちが眺望のいい所に行くと、何故か雲が切れて立山連峰が雄々しき姿を現してくれた。
地獄谷を過ぎて天狗平に行く途中で谷合いから雲が再び出始める。天狗平は霧に包まれてしまった。霧の中を歩いても仕方がないので、もう一度登る様な形で室堂に戻った。雲の上の室堂だけが、侵食してくる霧から辛うじて浮かんでいた。立山連峰が最後の挨拶をしてくれた。
バスに乗って立山市内に下りて行くと、天狗平で雲の中に入り、やがて雨になった。もうたいした景色も拝めないのでバスの中でひと眠りした。立山駅に着く頃、雨が止んだ。しかしどんよりした曇り空だった。雲の上から、雲の下に降りたのだった。宇奈月に向かう途中の電車で、魚津辺りを走る頃、日本海がちらっと見えた。標高3003mから標高0mにまで下りてきたんだなぁ、と実感した。
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