一方、国民党(SVP)は、外国人の犯罪率の高さや刑務所の収容者比率の高さ、社会保障の不正受給の問題などを指摘し、社会負担になっている外国人は即出ていけ、と主張し国民投票のキャンペーンをリードした。
結果は52.9%の賛成をもって、この国民投票は承認された。過半数のスイス国民にとって、スイス憲法が保障する人権より、外国人犯罪や、働きもせず福祉を悪用してのうのうとしている外国人の存在の方が許しがたかった。そういう事なんだろうと思う。
ところが、SVPの主張している数値に誇張はなかったのか、そうした疑問も指摘されている。また、実は社会保障費を多く納めているのは外国人で、スイスの社会保障費の下支えをしているのは外国人である、という事実を政府の社会保障担当者が証言している。
今回の国民投票は、SVPのプロパガンダの勝利だった、とも言えそうだ。外国人や移民の排斥を看板にするポピュリズムは、ここ数年勢いを増すばかりだ。
外国人が社会不安を招いている。だから、外国人を叩き出すと社会は良くなる。これは本当なのだろうか。市場を国際化し、外国人を受け入れつつ経済を発展させる。現代社会の発展は、そうしたプロセスに拠ってはいなかったろうか。
社会が完璧なままに発展することはない。いつの世にも犯罪があり、様々な問題が発生する。国際化社会には国際化した故の問題も発生する。難民、不正規滞在、国際マフィア、高い外国人犯罪率、などなど。こうした問題が、外国人排斥によって解決されるのだろうか。これは方向違いというしかない。こうした問題は、国際協調なくして解決が出来ないからだ。
ジュネーブなどでは、外国人による治安悪化が近年激しい、という声も聞く。しかし、犯罪者をつまみ出したところで、また新しい犯罪者がやって来ることは想像に難くない。何故なら、そこに犯罪者の好む土壌があるからだ。その根治は、個々の犯罪者の排斥ぐらいで成せる程のものではなく、まさに国際的な協調が必要となる。それは地道で根気のいるものかもしれない。しかし、そうした努力は粘り強さのある国際都市を育て上げる。
ここ10年来の先進国でのポピュリズムを見ていても、それで社会不安が解消されたり、経済発展がなされたりしたという事実は見いだせない。ところが、残念ながらポピュリズムの勢いは衰えない。先進国病といわれる、低成長、高齢化社会。こうした中で、人々は不安や不満を抱える。そのはけ口として、外国人や移民の排斥があるからだ。
ある人は、人権を守ることは自分への保険だと言った。そうだと私も思う。情けは人のためならず、という諺も同様の事を言っている。自分の人生を充実させるためには、人とかかわり、助け合って行く過程にしか術がない。
ところが、国民と外国人という区別においては、外国人が人間扱いされなくなる事もある。極端な例がユダヤ人の迫害だ。こうして人権が守られない国がどういう末路を辿るのかは歴史が示している通りだ。
現代社会において、そこまでの社会破滅も考え難いだろうけれど、例えば、外国人を排斥したように、将来老人になる自分も社会のお荷物として排斥される、そんな未来は容易に想像できるだろう。
スイス政府が公式に発表した最新の犯罪統計によると、2008年の服役者数は8136人で、そのうち57.9%にあたる4711人が外国人となっている。スイスインフォによれば、SVPはスイス全土の刑務所には6084人の囚人がいて、そのうち70.2%にあたる4272人が外国人であるとしている。
ReplyDeletehttp://www.bfs.admin.ch/bfs/portal/en/index/themen/19/03/05/key/vollzug_von_sanktionen/strafvollzug.html
ここには若干の数字の食い違いがある。公式統計の方が外国人の割合が低い。ただし、服役者に占める外国人の割合は依然高いとも言える。
一方、服役ではなく、地域奉仕を課せられた数は4529人で、うち外国人は33.1%にあたる、1506人となっている。外国人は刑務所に収監される割合が高いことがわかる。その要因は色々あるだろうが、外国から犯罪目的でスイスに来た者や、不法滞在者などは地域奉仕を課すことが出来ないといった理由もあるだろう。こうした外国人は、正規の移民ではない。
そこで、服役者と地域奉仕者の合計で外国人の比率を割り出すと、49.0%という数字になる。外国人の割合は半分以下になる。依然高い数値とはいえ、スイス国民の犯罪者の方が多い。声高に外国人犯罪者は無条件に国外追放だ、と主張するには数値的根拠が足らないのではなりだろうか。
服役の期間だが、6か月未満の服役者が全体の82%を占めている。凶悪犯罪者が含まれる18カ月以上の服役者は7%の520人。その半分が外国人だとして、260人程が外国人の凶悪犯罪者だ。
こうして統計の数値を追って行くと、SVPの主張はある時点での事実ではあったにしても、かなり誇張されたもの、また移民を含めた外国人犯罪者の無条件国外追放の根拠としては成り得ない数値だろう。
現在も外国人犯罪者の強制送還は行われているが、これを無条件として送還者数を増やしたにしても、その数が劇的に増えるとは予測しがたい。その割には、人権問題を引き起こし、国際的な軋轢を高めれば、そちらの損害の方が大きくなる危惧の方がよほど深刻に思える。
のりさん
ReplyDeleteこの問題に関しては、僕は、自分がどのような見解を持っているのか、自分でもまだ分かっていません(苦笑)。ですから、今後ものりさんのブログなどを参考にして考えていきたいと思います。
いずれにせよ、僕も海外で暮らしているのですから、他人事ではありません(苦笑)。
すいません、上記の匿名コメントは、
ReplyDeleteわたし、玉キングが書きました。
例えば、仕事帰り、疲れて自動車を運転していた。横断歩道で急に飛び出して来た子どもをはねてしまった。気が動転して、その場を離れてしまい。翌日逮捕された。その子どもは死亡していた。
ReplyDeleteひき逃げですね。日本でも罪は重い。実刑は免れません。このケースですと、日本でも受刑後国外退去となると思いますが、スイスでも今後は無条件で国外退去となります。
この人が、実は移民2世で、母国の国籍はあっても生活基盤が何もなかったりしたらどうでしょう。母国の言葉も自由に使えない。その母国は帰る事の出来る国とは程遠い存在です。
また、スイス人と結婚しており、家庭を持っていたとしたら。一家離散となります。
一律、自動的な国外退去は生活権を一方的に奪う、人権侵害の側面を持ちますので、問題が生じるでしょう。
スイスにやって来たけど金もなく、仕事もなく、強盗してしまったとか、薬に手を出して挙句の果てに人を殺したとか、こうした輩は国外退去してもらって当たり前だと思います。
国外退去の処分が出て、裁判で不服申請が出来る、ともなれば話は別でしょうけど。スイスの場合はそれもないので問題視されています。
ただ、シェンゲン協定とか、ヨーロッパ条約とか、優先的に守らなければならない条約等の制限があるので、今回のスイスの国民投票の場合、シェンゲン国やEU加盟国の外国人には実質骨抜きで、それ以外の出身国の外国人には過酷な制度になるだろうと予測されます。
結果的にアジア人やアフリカ人には過酷で排他的になる。それが見えちゃうので、嫌な気分です。
玉キングです。
ReplyDeleteのりさん、丁寧な解説をありがとうございます。
>結果的にアジア人やアフリカ人には過酷で排他的になる。それが見えちゃうので、嫌な気分です。
これにビビりました(苦笑)。
フランス在住の友人とやりとりしていても思うのですが、もしや欧州って随分排他的かもしれませんね、アメリカと比べてなんですが。彼女はビザの問題でしょちゅうバタバタしてします。
EUをひとくくりの合衆国と見做すと、多分アメリカと比べ排他的だと思います。アメリカの場合、アメリカで生まれた移民2世には国籍を与えていますけれど、スイスではそれはありません。EU内ではまちまちですが、無条件という国はありません。
ReplyDelete欧州もそれぞれの国に事情があって、モザイク模様ですけれど、ヨーロッパとそうでない国の間には壁があります。アメリカはヨーロッパの分家といった扱いです。
しかし、日本と比べると・・・・・。
のりさん
ReplyDelete世界中で、最も先進的というか開明的なのが欧州だと僕は思っているのですが、それでも、今回のように実質的にアジア人やアフリカ人に向けてわざと?冷たく当たるのが残念です。
ところで、
「しかし、日本と比べると・・・・・。 」
これが気になります。つまりのりさんのおっしゃりたいのは、日本はもっともっと排他的だ、ということですか?
はい、そうです。
ReplyDeleteまず、日本は複数国籍を容認していない。他国籍を取得したら、自動的に日本国籍まで喪失してしまう。自国の国民からも国籍を奪うという、とても排他的な制度です。先進国でこんな中国並みの排他的制度をとっているのは日本だけです。
以前ですが、アフガニスタンからやって来た難民の申請を却下しました、日本。戦争が起きている国から助けを求めてやってきた難民を、戦争が起きている国へまた送り返したのです。
スイスの例ですと、今回の投票で自動的に国外退去になるのは、殺人、強盗、麻薬、人身売買、性犯罪、などの罪ですが、日本の場合、窃盗でも国外退去になります。なぜなら、懲役1年以上が国外退去の対象になるからです。
外国人の入国に、指紋押捺を義務付けているのは、日本と米国のみ。米国は永住権保持者に対しては対象から外していますが、日本は特別永住者を除いて、永住権保持者も対象としています。
事例はいくらでも・・・
のりさん、
ReplyDeleteまさにおっしゃるとおりのことでした。
ちなみに僕は日本が再鎖国に向かっていると思っていて、
しかもそれは否定できない流れだと思っています。
あくまで感覚的にそう思うので論理的な証明はできないですが。
ですが、最低限、複数国籍は容認すべきだと考えています。
すいません、蛇足でした。
みんな外国に出てみたいとも思わなくなっているようですね。でも、日本の大学出ても就職口ないわけでしょ。
ReplyDelete内向きになって、じり貧になって、そりゃ、やばい気がしますです。